大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和37年(ラ)155号 決定 1963年3月27日

抗告人 岐阜県教職員組合 外一名

訴訟代理人 平田省三

被抗告人 岐阜県知事

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人等は、原決定を取消し、さらに相当な裁判を求めると申立て、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり述べた。

よつて考えるに、本件抗告人等を原告、被抗告人を被告とする岐阜地方裁判所昭和三五年(行)第一号県条例公布処分無効確認請求事件及び名古屋高等裁判所昭和三六年(ネ)第一七一号同上控訴事件の各記録によると、被抗告人は右事件の第一、二審を通じてその訴訟代理人として岐阜市八ツ寺町一の一九に事務所を有する弁護士岡本治太郎と東京都中央区新富町二の一二に事務所を有する弁護士吉井規矩雄を選任し、右事件について訴訟行為を為さしめた結果、抗告人等の敗訴判決が確定したことが判かる。

ところで被抗告人が地元の岡本弁護士の外に、特に、吉井弁護士を選任したのは、岐阜県としては、本件は性質上異例の案件でもあり且つ県条例公布処分の無効確認等請求の訴訟を受けたのは初めてであつて、その応訴に慎重であつたところ、偶々都道府県教育長協議会で聴いたところによると、右吉井弁護士は、この種の事件に精通し、経験も豊富であると云うことであつたためで、他方、事実上においても、右各事件について同弁護士は主任となつて訴訟行為を為したこと、一方岡本弁護士は主として被抗告人との連絡の便宜上選任せられたものであることが、当審における岐阜県総務部総務課法令課長服部義明に対する受命裁判官の審問調書により窺知せられる。そうだとすると吉井弁護士が右各事件のため出頭するに要した旅費、止宿費等は、被抗告人の権利の防禦に必要な費用とみるを相当とし、従つてこれ等の費用を訴訟費用の一部として計上し、訴訟費用額の確定決定を為したのは相当であつて、抗告人の主張する違法性はない。

よつて本件抗告を棄却することとし、抗告費用につき、民事訴訟法第九五条、第八九号を各適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 神谷敏夫 裁判官 山口正夫 裁判官 越川純吉)

抗告理由

原決定は抗告人等の負担すべき訴訟費用額は金十二万七千三百六十五円と確定し、その添付の計算書によると、相手方訴訟代理人(吉井規矩雄弁護士)の第一審分東京、岐阜間の弁論期日並に判決云渡期日の出頭旅費として計金六一、二六〇円、右同止宿料として計金一六、六六〇円、並に第二審分東京、名古屋間の右同出頭旅費として計金三二、二六〇円、右同止宿料として計金九、〇四〇円以上合計金一一九、二二〇円を訴訟費用中に含ませているが、これは次の理由により不当であり、取消さるべきである。

(一)民事訴訟法は訴訟行為をするにつき訴訟代理人によることを要求していないから、当事者本人が訴訟代理人を数人選任した場合でも、訴訟費用に計上すべき訴訟代理人の出頭旅費、止宿料等は、全員についての費用でなく、その内の最も少額の者一人を基準として算定すべきである(仙台高裁昭和二十七年九月十五日決定、下民集三巻九号一二四六頁)。

現に相手方は訴訟代理人として優秀な弁護技術と長年の経験を有する岐阜市八ツ寺町一ノ一九岡本治太郎弁護士を自ら信頼して代理人に選任し、同弁護士が第一、二審を通じて相手方の弁護に当つて来られたことは記録上明らかであり、相手方の権利の伸張防衛には右岡本弁護士を以て、すでに充分であつたと思料されるので、相手方がその上更に態々東京在住の前記吉井弁護士に委任したとしても、同弁護人の出頭旅費並に止宿料は権利の伸張、防禦に必ずしも必要な費用とはいえないから、これまでも訴訟費用に含ましめて抗告人に負担させることは不当である。

(二)さらに訴訟代理人は本人に代つて訴訟行為をするものであるから、訴訟代理人の住所又は事務所と裁判所の距離より遠い場合は、その超過分の旅費等については、当事者の任意の行為に因つて生じた費用であり、権利の伸張防禦に必要な行為に因つて生じたものとはいえず、当事者本人と裁判所の距離を基準として算出された旅費のみが本来当事者本人の権利の伸張、防禦に必要なる訴訟費用である(大審昭和九年十二月五日民三決定、判例体系二一巻九五〇頁、大審昭和十四年九月二十七日民四決定、同上九六二の四頁、大審昭和十五年八月十四日民四決定同上)。

この意味からいつて原決定が出頭旅費並に止宿料を算出するに当つて、相手方本人と裁判所の距離を基準とせず前記東京在住の吉井弁護士の住所と裁判所の距離を基準として同弁護士の旅費、止宿料を訴訟費用と認定したのは抗告人に対し、「測らざる過大不当の額を負担せしむる」ものであつて許されない。

(三)よつて、抗告人は原決定の確定費用額中、前記吉井弁護士の出頭旅費、止宿料合計金一一九、二二〇円を取消し改めて相当なる裁判あらんことを求めて本件抗告に及んだ次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例